2021/05/17 17:06
「きれいな紅色を出したい」と釉裏紅に挑み始めた先代の田中一晃でしたが、発色を安定させることは至難の業でした。
釉裏紅は、釉薬の下に銅を発色剤とした下絵具で絵付けを施し、窯内の炎の具合によって紅色を出す手法です。釉薬の調合や焼き方の条件、絵具の濃さなどちょっとした変化に影響を受けやすく、その色は薄くなり消えてしまったり、緑色が出たりするのです。
そもそも中国・元時代末期に起源する釉裏紅は、磁器の絵付けで「赤」を出す手法の主流だった時代がありました。しかし当時から発色の不安定さが課題となり、いつしか発展が妨げられてしまったという経緯があります。
そんな中、一晃は安定した紅色を追い求めながらも、ある境地にたどり着きます。窯出し後、思わぬ発色が顔を見せた時はこんな風に思いました。「それはそれで面白い。窯の中のドラマが想像できて楽しい」。
白磁に映える紅色のあでやかさと、窯の中での条件に左右される繊細な変化「窯変(ようへん)」による自由な発色を魅せることこそが一位窯の特色であると、方向性を定めました。
次回は、2代目の田中忍が受け継ぎ、追求し続ける釉裏紅を深堀りします。