2021/06/09 14:48
大学進学を機に上京していた2代目の田中忍(たなか・しのぶ)は、1987年に帰郷。父、一晃に師事し、一位窯で作陶を始めました。以来繊細で奥の深い釉裏紅に目覚め、一位窯の特色である「夢の色」を受け継ぎながらも、新たな作品を生み出してきました。
釉裏紅の最も難しい点といえば、忍にとってもやはり「窯から上がってこないとどんな色合いになっているかわからないところ」だと言います。
「想像しながら絵付けをするけれど、想像通りにはいかない。落胆したり、逆に想像を超えて良かったりする。その繰り返しです」。
釉薬の調合や窯の状態を見極め、何度も窯を焚き、一喜一憂しながら経験を積み重ねてきたのです。
忍の作品では鮮やかな赤で模様を並べた鉢や、淡い色合いで草花を表現した豆皿など、多彩な釉裏紅の表現が見る人を驚かせます。食卓が華やかになったり、親しみを感じるような温かさがあったりするところが魅力になっています。
デザインは、普段の生活の中でふと目につき「面白い」と感じたもの、琴線に触れたものから生まれるといいます。山に囲まれ、自然が身近にある嬉野市の自宅工房では、四季折々の樹木や草花もスケッチして作品に生かします。
絵付けについては、「(窯変〈ようへん〉など)さまざまな偶然の要素が重なって生まれる、偶然の産物の色合いを楽しんでもらえたら」と話します。釉裏紅と向き合い、魅力を追求する日々は続きます。
「釉裏紅ものがたり」では、一位窯の釉裏紅について4回にわたりご紹介してきました。作品を見る際は、発色の違いや個性を見比べて、じっくりと味わっていただければ幸いです。また、写真を通じてオンライン上でも繊細な絵柄をご覧いただけるよう努めてまいります。今後ともよろしくお願いいたします。